2011年10月8日土曜日

2センチ開ける姑



「私は25才で結婚し、48才の姑と同居することになりました。
姑は35才で夫を病気で亡くし、以来ずっと孤閨を守ってきたからでしょうか、異常なほど嫉妬深く、私は、ノイローゼで食事ものどを通らない状態なのです」

T子さんのご主人は、食品加工工場に勤めるサラリーマンで、T子さんと同い年。

酒、たばこ、ギャンブルはいっさいやらないクソまじめな夫だが、あちらのほうはかなりの絶倫。

新婚以来、夫婦生活は1日おきのペースで、T子さんは夫の愛情に身をまかせて、姑の存在を完全に忘れる夜が続いたが、結婚半年めのある夜、寝室にはいっていつものように夫の胸に顔を寄せると「きょうはよそう」と夫がいいだした。

「どうして?」というと
「おふくろが聞いているんだよ」

T子さんの体をサーッと悪寒が走った。T子さんが起きて2階の寝室のふすまをあけると、なんと姑が突っ立っていた……。

嫁:「お姑さん、なんでしょうか?」

姑:「いや、ちょっと、めがねを探してましてね」

すごすごと姑は階段を降りていった。その日から、姑の異常な行動が始まった。T子さんは語る。

「姑はいつまでも寝ないで、ず~っと私たちと居間にいるんです。
それで、私たちが早く寝室にはいると、夜中の1時ごろまでトイレのドアをわざとバタンと閉めたり、冷蔵庫をひっきりなしにバタンバタンとやるのです」

嫁:「イヤだわ、お姑さん、まるで私とあなたが寝るのを、妬んでいるみたい」

夫:「おふくろの悪口はいうなよ、キミらしくもない。狭い家だし、しょうがないだろう」

それから、T子さんは夜がくると神経がイライラするようになった。姑が寝室を覗いている恐怖に襲われるようになったからだ。そして、それがとうとう現実となった。

「結婚して2年くらいしてからのことでした。
姑がふすまを2cmくらい開けて、ジーッと見ていたんです。
気がついたときは、夫は夢中で私の体の中にいましたが、姑のぎらついた目が妖怪のようで、
“ギャーッ、助けてぇ!”
と、私は思わず叫んでしまいました。しかし、姑は恍惚とした表情でしばらくジーッとそこに立っていたんです」

それからT子さんは、夫に抱かれても燃えなくなってしまった。

「あんなに寝るのが遅いのに、姑は毎朝5時に起きて、2階の私たちの部屋の前でわざわざ“エッヘン!”とせきばらいを3回くらいして、それから散歩に出かけていくのです」

つい最近のこと、T子さんが朝食の準備を始めたが、姑が帰ってくる時間にまに合わなかった。

姑:「いい年こいて、いつまでいちゃついているんだ。近所の人が笑っているよ」
それから姑は、“ここぞとばかり”に息つく暇もなく、T子さんに暴言を浴びせる。

「あんたは、人間の体をしているけど、けだものとおんなじだわよ」

「息子にいちゃつくばかりで、料理はまるでダメ。どこにいいところがあるの!」

「ほんとに高校までいって、いったいなにを勉強してきたのよ。男の尻ばかり追いかけてきたんじゃないの」

鬼のように蛇のように変貌した姑は、これだけいっても気がすまないらしく、T子さんを殴りつける始末。
そしてT子さんはとうとう堪忍袋の緒が切れた。ある日、買い物の帰りに近所の主婦とすれ違うと、
「ご夫婦仲がよろしくって、いいわねえ」
と、妙に侮辱を含んだ笑みでそう声をかけられたのだ。真相を追究してみると、予期したとおり、嫉妬に狂った姑が、近所の奥さん連中をつかまえては、
「うちの嫁ときたら、昼間はなにもしないで、夜になると激しいんですよ。もう、あられもない声をあげるので、私は毎日、すっかり不眠症で、5キロもやせました。ほんとにあんな嫁は、一生の不作ですよ。悔しいたらないよ」
と、いいふらしていたのである。

それをちょっとたしなめると、
「鬼嫁に殺される~」
と、泣き叫ぶ姑――。
T子さんの嘆きは続く。

「夫婦関係もすっかり冷えて、いまだに子供ができないのは姑のせいだと思っています。
胸の中が煮えくり返る思いで、これから先も暮らさなくてはと思うと、もう地獄にいる毎日なのです」





息子夫婦の情事を覗くべく、ふすまを2センチ開ける姑。その「2cm姑の恐怖」の衝撃から1年半。

* * *

ふすまを2センチ開けて、夫婦の寝室をのぞき見する姑の行為はその後も続いた。T子さんがいう。「深夜0時近くになると、ヒタヒタと階段を上がってくる姑の足音がするんです。もう体がカチンカチンになって、とても夫婦生活どころじゃありません。不眠が続いて、毎日、頭痛に悩まされるようになりましてね」

寝るのが遅いはずの姑は、朝は5時に起き、T子さんたちの寝室の前でわざとらしくせきばらいをしてから散歩に出かける。

そして、“息子を嫁に取られた”という姑の嫉妬はつのり、女としての対抗手段に出るようになった。「今月の3月、日曜日のことでした。夕方、買い物から帰ってくると、風呂場から姑と夫の笑い声が聞こえてくるんです。

しばらくして下着一枚の姑が上気した顔で居間にやってきて、“たまにはK夫(夫・31才)の背中を流してやろうと思ってね。あの子、小学校の3年生まで、私のオッパイ握って甘えていたのよ”と、得意げにいうんです」

それから、姑は息子をソファに寝かせ、手慣れた手つきでマッサージを始めた。 肩から腰、太ももと、姑の指が夫の体をもみほぐすのを見て、T子さんは、「母子相姦を目の前で見せつけられているようないやらしさにゾクッとしました」

もちろん、T子さんは夫をいさめた。すると、夫は軽く笑い飛ばしていった。「おまえ、やきもち焼いとるんか。バカだなぁ、たまにはおふくろの機嫌もとらなきゃいかんだろう」

それから、姑は、かいがいしく息子の世話をやくようになった。T子さんは我慢がならなくなった。「世話をやいてくれるのはいいとしても、夫婦の睦言さえも姑につつぬけで、夜のおちおちしていられないなんて冗談じゃない」

結婚してまる6年、いまだに子供ができないのも、夜毎の姑ののぞき見が原因で、夫婦関係が冷えてしまっているからだと思った。

ある日、T子さんは夫を説得した。「ねえ、お姑さんに遠慮なんてしていられないわよ。私ももう30才を過ぎたんだから、早いとこ子供をつくらなきゃ。もうできなくなるかもしれない……」

T子さんは、ギスギスした嫁姑関係を解消するためにも、なんとしても子供がほしいと思った。夫も納得した。その夜から、T子さんは“2cm姑”を無視することにした。“子供がほしい、子供がほしい”――ひたすらそれを願って、夫に抱かれた。

姑は、相変わらず、夜中になるとトイレのドアをわざとバタンと閉めたり、冷蔵庫をひっきりなしに開け閉めして、エヘン、エヘンとせきばらいを続けた。そして、2cmのふすま開きは、やがて5cmになり、とうとう10cmぐらい開けて、ジーッとのぞき込むようになった。

「姑の存在を完全に忘れようと努力しました。だから姑も、“ちくしょう!”という気持ちでエスカレートしたんだと思います」

今年の8月の終わり、むし暑い夜だった。姑の“覗き見”に異変が起こった。熱帯夜に寝つけない姑は、“10cm”の悪癖を性懲りもなくやっていた。T子さんは、らんらんと輝く姑の目を意識しながら、夫に身をまかせていた。

姑の息遣いが荒くなるのが伝わってきた。すると、突然、姑が、“ウ、ウッ~”といううめき声をあげた。T子さんも夫も起きあがった。と、次の瞬間、ド、ド、ドーッという激しい音が家じゅうに響きわたった。

夫婦が寝室を飛び出すと、階段の下で姑がうつ伏せに倒れていた。興奮のるつぼに達した姑は、頭に血が上ったのだろう。青息吐息で救急車で運ばれたが、脳血栓と診断された。

「それっきり、病院で寝たきりなんです。私の顔はもちろん、主人の顔さえもわからなくなっちゃったんですよ。ついこないだまでケンカしてた姑がいなくなってみると、おかしなもんですねえ、なんだか拍子抜けしてしまって、なんだか寂しいんですよ」

“悔しい”と嫉妬に狂った姑は、49才の若さで惚けてしまった。

「でも、姑はいなくなったけど、私、赤ちゃんができたんです。3か月にはいったんですよ」
T子さんはそういって、複雑な笑顔を見せた。

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